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世界

アップルが到達した「半導体企業」としての形

時は遡り、2011年10月。スタンフォード大学のキャンパスにある神聖な礼拝堂で執り行われた心洗われるような追悼式が終わったときのことです。スティーブ・ジョブズの友人、家族、そして関係者300人ほどが満月の下、キャンドルの灯った近くのパーティー会場へと歩を進めていました。

 

ビル・ゲイツやティム・クック、アップル創業期の社員たち、そしてボノらが会話を交わす輪。ゲイツとアップル関係者の数人は、アップルが「Macintosh」にモトローラのチップ「68000」シリーズを選択したことについて、熱い議論を交わしていました。

 

アップルの歴史をひも解くと、極めて重要な決定の多くは、デヴァイスを動かすためにどのメーカーのどの半導体を選ぶのかに関するものでした。当初のMacintoshが採用した「68000」シリーズのチップは、モトローラ製です。後にアップルは、IBMとモトローラとの協業に基づいて開発されたRISC方式のチップ「PowerPC」シリーズを採用しました。

 

このあとアップルが2006年から「Mac」シリーズをインテルのチップへと移行させた出来事は、まさに劇的な転換だったといえるでしょう。しかし、2007年に発表された「iPhone」のマイクロプロセッサーに、ジョブズは満足していなかったのです。サムスン製のARMチップを採用していましたが、十分なパワーを出せなかったのです。

 

まもなくジョブズは、他社のチップを使っていてはアップルは自身が思い描く高みには決して到達できないと結論づけました。こうしてアップルは、独自のニーズにかなう職人技のような技術の半導体を必ずや自社開発し、他の誰ひとりとして想像したことのないような革新的な飛躍を遂げるのだと、ジョブズは堅く誓ったのです。

 

アップルが2021年4月20日(米国時間)に開催した春の新製品発表会は、こうしたジョブズのヴィジョンが完全に現実のものになったことを、これ以上ないほどに証明しています。アップルの独自チップは数年前から同社のスマートフォンを動かしていて、2020年からはMacにも採用されました。

 

今回の発表会のプレゼンテーションは、総工費50億ドル(約5,400億円)をかけて建設され、いまやゴーストタウンのようなアップル本社の豊かに生い茂った緑のなかで収録されています。その発表内容は、ともすればバラバラの製品の発表であるように見えたかもしれませんが、そこには共通するテーマがあり、密かな自慢にもなっていました。自分たちでチップをつくれば、まるでこんなことまで可能になるのだ、と・・・

 

発表会の目玉は、2020年の秋から「MacBook」シリーズの動作を大幅にパワフルなものにしたアップル独自の「M1」チップでした。M1チップは2021年は「iMac」にも搭載され、そのパワーのみならず関連する独自チップの能力を最大限に発揮すべく全面刷新されました。

 

パワフルなチップのおかげでiMacはより高速になり、瞬時に起動するとアップルは謳っています。しかも、M1チップが低消費電力であるおかげでアップルは筐体をはるかに小型化でき、驚くほど薄型にもなったのです。

 

M1チップを内蔵したモバイル機器なら、節電に最適化されたチップでは処理が遅いか、まったく処理できないようなタスクも実行できるのです。おかげで「iPad Pro」は高速化し、拡張現実(AR)の表現といった重い処理もこなせるようになりました。サイズが大きい12.9インチモデルのiPad Proではディスプレイに大量のミニLEDを採用しており、アップルはこれを「Liquid Retina XDR」と呼んでいます(要するに従来よりずっと明るいのです)。

 

アップルが「macOS」と「iOS」という異なるOSで動くデヴァイスに同じチップを使うことには、極めて象徴的な意味があります。モバイル機器とデスクトップPCの世界を統合していくアップルの長期的な計画にとって、ひとつの重要な到達点になるからです。

 

これらのふたつの世界をひとつにすべく、アップルは少しずつ少しずつ歩みを重ねてきたのです。

現段階では、iOSアプリがどのようにMacで動作するのかはわかっています。しかし、その逆は実現していません。完全な統合を待ちかねている人々もいますが、障壁のひとつはアップルがMacへのタッチスクリーンの採用を拒んでいる点にあるようです。

 

いずれにしても特筆すべき点は、アップルの現在のイノヴェイション(そしてもちろんARメガネと、ひょっとしたらクルマまで含むことになるであろう今後のイノヴェイション)の多くが、今や独自の半導体によって可能となっていることにあります。紛失物を見つけるための小さなタグ「AirTag」の高い精度ですら、独自チップで実現しているのです。

 

かつて私たちはきっと、アップルのことを、デザインに強みのある企業だと考えていたのかもしれません。その機能美は今も健在であり、見て楽しめるところも変わらない魅力です。なにしろiPhoneに本体色がパープルのモデルまで投入したのですから!

 

しかし、現在のアップルが誇る最も優れたデザインは、シリコンウェハーにナノレヴェルの細かさで複雑に刻まれています。本体を無理やりにでも、こじ開けない限りは、それを実際に目にすることはできないのです・・・

 

さぁ、あなたには、本体をこじ開けてスティ-ブ・ジョブズの目指した高みを見てみる勇気がありますか📱

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