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情報

夏の海を「凶器」に変えるもの・・・それは・・・

夏の海でもっとも恐ろしいのは、水の流れが原因の水難事故です。子供が知らず知らずのうちに沖まで流される、あるいは助けに行った大人が間に合わずに溺れるといったケースも多いです。特に有名なのは海岸から沖へと流れる「離岸流」ですが、実はそれ以外にも「気を付けるべき流れ」が存在するのです。

 

それは、ヘリコプターから撮影された衝撃的なある動画です。その動画は、海での水難救助活動の様子が撮されていました。ホイストワイヤーで吊り下げられた隊員が、背浮きで救助を待つ兄弟へ向けてゆっくりと近づいていきます・・・

 

やがて隊員に確保された少年がホイストでヘリコプターに吊り上げられて、無事に機内に収容されました。そして、とうとう再び降下した隊員が少年をしっかりと確保し、2人とも無事に救出されたのです。

 

この水難事故では、兄弟が海岸から約500mの沖合いにて背浮きで救助を待っていました。防災航空隊が兄弟を早期に発見し、きわめて判断の難しい「救助の順番」を見抜き、的確な救助活動を行いました。要救助者と救助者との行動がマッチングした、これが無事生還を果たした重要なポイントです。

 

ここで気になることがあります。兄弟2人は海岸から500mもの沖合いの海上で何をしていたのか?この疑問を解くことによって、私たちは海の本当の怖さを知ることになるのです・・・

 

兄弟2人は、祖父に連れられて新潟県のある砂浜海岸に海水浴に来ていました。それは8月上旬の暑い日。この砂浜海岸は西北西を向くような形で、日本海に直接面しています。砂浜が比較的長く続く、新潟県ではよく見られる典型的な姿の海岸です。

 

海岸から50mほどの沖には消波ブロックからなる離岸堤が設置されています。海岸に沿うように100mほどの長さです。隣接する離岸堤との間には20mほどの隙間があります。

 

さらに離岸堤周辺には岩場が広がり、ちょうど離岸堤の隙間のあたりだけ岩が深く水底に沈んでいます。この隙間は、漁師が小型ボートを使って海岸から沖に向かって行き来するルートにもなっています。

 

この日の日本海は波が少々高かったものの、離岸提の内側であれば波の直撃は避けられました。離岸提は本来、海岸の砂浜の流失を防ぐ役割を持ちますが、夏の海水浴シーズンには沖から来る波を避けるような役割を果たすのです。

 

このような海岸では、波の高さが高くなると離岸堤を超えて海水が砂浜側(内側)に入ることがあります。内側に入った海水は離岸堤を超えて元に戻ることはできないので、その海水は離岸堤と離岸堤との間にある隙間に集中し、そこから元の海に戻るのです。

 

この時に沖に向かって流れが生じれば、それは「離岸流」と呼ばれます。この海岸は岩場の構造も相まって、簡単な条件がそろえば離岸流が発生しやすい場所だといえます。

 

兄弟はまさに離岸堤の隙間から離岸流に乗り、想像するにかなりの速度で沖に向かって流されていったのです。海岸工学などの教科書には離岸流は沖合いおよそ数百mに達する流れだとされているので、沖合い500mまで兄弟を流した離岸流は、まさに教科書的な現象だったといえます。

 

それだけの強い流れです。流れに逆らって泳いで戻ることは絶対に無理なのです。よく離岸流に遭遇した場合の対処法として、「横に泳いで流れから逃げて、それから岸に向かえ」などと言う人もいますが、離岸堤の隙間からしか砂浜に戻れないのだから、その空想が現実的ではないのは明らかです。

 

だからこそ、兄弟が背浮きで浮いて呼吸を確保し、救助が来るまで待てたことは奇跡に近いのです。そもそも、兄弟は防災ヘリコプターが救助に来ること自体、想定しいなかったかもしれません。「自分たちは誰にも発見されずにいつまで浮くことになるのだろう」と考え始めれば、そこにはもう絶望しか見えてきません。

 

離岸流という言葉のインパクトが強いせいか、水難事故が発生するとなんでも離岸流のせいにする風潮があるように感じます。しかし、実際に発生した事故の調査を行なったり、当時の気象を解析したりすると、別の要因によって流された事故の方が多いことがわかっているのです。以下は代表的な3つです。

 

1. 風に流されてしまう

よくある現象です。中学校の理科では日中は海から陸に風が吹き、夜間は陸から海に風が吹くと習います。そして風の向きが変わる時が凪です。まさに風が止まる時間が朝と夕方にあることになります。

 

しかし、それはあくまでも教科書の上での話です。実際にはもう少し大きなスケールで風向が決まることがあります。例えば日本海に低気圧が入り込むと、太平洋側から強い南風が新潟県に吹き降ろします。いわゆるフェーン現象です。夏には普通に見られ、日本海側の各地では猛烈な暑さとなります。

 

新潟県などの日本海側で南寄りの強風が吹くと、当然陸から海に向かって風が吹くことになります。このような気象条件の時に、子供を浮き輪で遊ばせたり、大型遊具に載せたりして海岸付近に放置すれば、あっという間に沖に流されてしまいます。

 

夏のフェーン現象では、場合によっては秒速10mにも達する強い風が吹きます。子供が浮き輪に身体を入れて浮いていると、上半身が帆になって風を受けます。仮に秒速2mで沖に流れていくとすれば、それは100mを50秒ほどで移動する速さです。

 

100m自由形の世界記録が50秒弱ですから、子供が流されたことに気が付いて保護者が泳いで追いかけても、普通は追い付くことができません。ましてや、追いかける方は途中で力尽きてしまい、最期は足の届かない海中で溺れることになります。このようにして、流された子供は浮いたまま助け出されて、保護者が命を落とす水難事故があとを絶ちません。

 

沖に向かって風が吹きやすい海岸は、全国の至るところにあり、そういう海岸は元々海水浴場になっていなかったり、海水浴場だとしても風向きによっては遊泳禁止になっていたりします。「泳いではいけない」と言うからには、本当に恐ろしいことが起こるのです。海の専門家のいうことはぜひ素直に受け止めましょう。

 

2. 突然の強烈な流れ

きわめて珍しい例ですが、調査されていないだけで、もしかしたら多くの人がいっぺんに命を落とす多人数水難事故のほとんどの原因はこれかもしれません。

 

2017年8月11日、福岡県古賀市にある古賀の浜から「子供2人が流され、その他に父親と救助に向かった男性が行方不明」との119番通報が古賀市消防本部に入りました。懸命の救助活動にもかかわらず、結果として4人全員が溺れて命を落としました。

 

水難学会事故調査委員会が現地調査を行った結果は、簡単に言えば「ポケットビーチで発生する沖向きの強烈な流れによって4人が深い場所に向かって流され、溺れた」ということ。

 

古賀の浜は、陸に向かってへこむような弓なりの砂浜で長さが400mほどです。このような弓なりの砂浜をポケットビーチと呼びます。西側は河口になっていて、河口と砂浜を分けるように突堤が沖に延びています。

 

現場で集めた目撃情報を基にすると、事故の発生は午後13時50分頃。海岸から5mほどのところでビート板で遊んでいた子供2人が急に突堤内側を先端方向に向かって流されました。父が砂浜から海に入り追いかけ、さらに途中から別の男性も海に飛び込み、それぞれが子供の救助を試みました。しかし間もなく、子供も大人も4人が海中に沈んでしまったのです・・・

 

現場にて同じように流されて助かった人の証言によれば、「突如、5秒くらいで20mほど沖に流された」といいます。単純に割り算をすると、秒速4mにも達します。先程の離岸堤の隙間から流された事故でもせいぜい秒速1~2mほどでしょう。だから、古賀の浜で見られた流れは「突然の強烈な流れ」として、どんな流れとも切り離して考えなければならないほどの特殊な現象なのです。

 

実は、この日の午前にも同様に激しい流れがポケットビーチ中央付近で観測されていました。その後すぐに収まり、午後13時50分頃、再び激しい流れが発生したといいます。過去にもこの現場では同じように沖に流されて溺れた人がいて、事故が繰り返されていて、地元の人には「時々激しい流れが発生する」としてよく知られている現場です。

 

だからこそ、安全な砂浜に見えるにもかかわらず、あちこちに「遊泳禁止」の看板が立てられています。もちろん海水浴場ではありません。

 

この突然の激しい流れは、日本海を進む低気圧によって発生したうねりによるものと 説明されています。
地元の多くの人が「この浜は危険だ」と言ったら、それは「本当に危険なのだ」と理解しなければなりません。「足だけ浸かろう」すら、命を落とす原因になりかねないのが海の本当の怖さだからです。

 

3. 台風のうねり

ならば、「海に入らず砂浜で散歩しよう」なら安心かというと、それでも溺れる事故が多発しているのです。太平洋側では東京から遠く1000kmも離れた小笠原諸島周辺に居座る台風からのうねりで多くの人が犠牲になった、2019年の同時多発的な水難事故を挙げることができます。

 

この事故は8月11日に関東地方を中心に発生した海での一連の水難事故を指します。

・午前9時10分ごろ、神奈川県三浦市の剣埼灯台の下の岩場で、釣りをしていた30代の男性が行方不明となる。

・午前11時20分ごろ、神奈川県小田原市早川の海岸で、男女3人が沖に流される。

・午後13時ごろ、神奈川県真鶴町真鶴の海岸で、17歳の少年が沖合約20mの海面に浮いているのを一緒に来た友人が発見する。

・午後14時40分ごろ、藤沢市鵠沼海岸で、「溺れている人を岸に上げた」と119番通報。救助された男性は死亡。

・正午過ぎ、千葉県勝浦市の守谷海水浴場で海水浴をしていたおよそ40人が、100mほど沖合に流される。ライフセーバーたちが救助にあたったが男性1人が死亡。

 

その特徴は、11日の昼前後に水難事故の発生時間が集中していることです。そして台風の影響とは言え、本州から遠く離れているため、事故現場は晴天で強風が吹いているわけではなく、穏やかな夏の一日になるはずだったのです。

 

うねりというのは、勢力の強い台風の付近で発生した高い波が長い距離を移動するうちに、高さはあまりないが奥行きが広くなる波に変わったものです。台風のエネルギーをそのまま伝えるので、海岸に到達すると内陸深くまで海水が遡上したり、先程のような突然の激しい流れを作ったりします。そして、日本列島全体を襲うため、かなり広範囲に水難事故を起こす原因となります。

 

海岸に出かける時には台風情報に注意し、常に「波にさらわれるかもしれない」という気持ちでいたいものです。

 

以上の海の流れは突然発生します。しかし、人の命を奪ってしまうほどのものは、よく起きる所がおおよそ限られていますし、そのような場所では遊泳禁止になっています。もちろん注意喚起の看板が存在します。

 

だからこそ、私たちは海の怖さを知り海水浴や散歩は海水浴場で、そしてライフセーバーなどの監視員の指示に従って海を楽しまなければならないのです👍

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